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東京地方裁判所 平成7年(ワ)13557号 判決 1999年6月29日

原告

株式会社三宅デザイン事務所

右代表者代表取締役

小室知子

右訴訟代理人弁護士

大武和夫

玉井裕子

右訴訟復代理人弁護士

飯田聡

被告

株式会社名鉄百貨店

右代表者代表取締役

佐藤大治

被告

株式会社ルルド

右代表者代表取締役

鈴木民男

被告両名訴訟代理人弁護士

舟橋直昭

髙橋譲二

被告両名訴訟復代理人弁護士

榎本修

主文

一  被告株式会社名鉄百貨店は、原告に対し、金一〇万円及びこれに対する平成七年七月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社ルルドは、原告に対し、金一〇万円及びこれに対する平成七年七月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

五  この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項及び第二項と同旨

2  被告らは、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を、朝日新聞、毎日新聞及び読売新聞の各全国版社会面に二段抜き一五センチメートル幅で、繊研新聞及び日本繊維新聞に半五段(五段抜き半頁幅)で、表題部を一六ポイント、宛名及び被告らの名を一二ポイント、その他の部分を一〇ポイントの各活字をもって、各一回掲載せよ。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、著名な服飾デザイナーである訴外三宅一生(以下「訴外三宅」という。)を中心とする所属のデザイナーによって衣類・服飾雑貨等のデザインを考案することを業とする株式会社であり、訴外株式会社イッセイ・ミヤケ(以下「訴外会社」という。)に、これらのデザインを利用した衣類等を製造・販売することを許諾し、訴外会社からロイヤルティを得ている。

原告と訴外会社は、親子会社の関係にあるのみならず、ともに訴外三宅の実質的経営に係る企業グループを構成し、右企業グループとして服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」を運営している。

(二) 被告株式会社名鉄百貨店(以下「被告名鉄」という。)は、百貨店を営む株式会社であり、被告株式会社ルルド(以下「被告ルルド」という。)は、婦人服の製造・販売等を目的とする株式会社である。

2  不正競争防止法二条一項一号の不正競争

(一) 原告の周知な商品表示

(1) 原告は、別紙物件目録(二)1ないし5記載の商品(以下「原告商品1ないし5」という。)を含む「プリーツ・プリーズ」というブランド名の一連の婦人服(以下「原告商品」という。)のデザインを考案し、訴外会社は、平成五年二月から、原告の許諾を受けて原告商品を製造・販売している。

(2) 原告商品の形態の特徴

原告商品は、次のような、各アイテム(品目)に共通した形態の特徴を有し、これらの特徴が相まって、需要者である女性の感覚に訴える独自の意匠的特徴を構成している。

① ポリエステル一〇〇パーセントの裏地用の生地に縦方向の細かいランダムプリーツ(ひだの幅が一定しないプリーツ)が施されていること

これによって、従来のプリーツ製品が有する重量感が解消されるとともに、独特の光沢と紙と錯覚するような質感が得られている。

② 布の端の縫い目の部分全てに他の部分と同様の細かいランダムプリーツが施されていること

布地を縫製してからプリーツ加工を施すという製法により、あらゆる布の端に、殊に肩線の縫い合わせ部分にも前身頃と後身頃がぴったりと重なり合ったプリーツが施されており、これによって、平置きしたときにあたかも一枚のプリーツ加工した布を切り抜いたかのような平面的な印象を与えている。

③ 直線裁断による幾何学的なラインを有していること

一部の上着のアイテムの襟ぐりや袖ぐりを除き、立体裁断を使用せず、全て直線で裁断されている。また、身に着けたときのシルエットを美しくするために通常施される縫製上の技術を用いた補正を一切行わず、紙を二枚切り取って縫い合わせたかのような直線的、幾何学的な仕上がりとなっている。

④ 身頃から袖に切り替わる部分が独特の形態を呈していること

袖のある上着のアイテムに関しては、布地を縫製して折り畳んだ状態でプリーツ加工を施すという製法により、身頃部分と袖部分の間に継ぎ目がなく、紙を折ったようにすっきりと自然に切り替わるとともに、身頃と袖の間に独特の三角形の部分が生じている。

(3) 原告商品の形態の周知商品表示性

原告商品は、平成五年二月の発売以来アパレル業界の注目を大いに集め、その売上げは短期間のうちに驚異的な伸びを示し、一年後の平成六年二月には販売地域も首都圏から近畿地方に広がっていた。また、原告商品は、発売と同時に業界紙や服飾関係雑誌等に並外れた関心の高さをもって頻繁に取り上げられ、原告商品の特集を組む雑誌がいくつも現われるに至った。このようにして、原告商品は、遅くとも発売から一年後の平成六年二月ころには、全国において、その取引者である服飾関係者及びその需要者である一般女性に広く認識されるところとなり、その結果、原告商品に共通する前記のような特徴的形態は、そのころまでに原告の商品であることを示す商品表示として全国的に周知となった。

(二) 被告らの行為

被告ルルドは、別紙物件目録(一)1ないし5記載の商品(以下「被告商品1ないし5」という。)を含む「ルルド・エレガンス」というブランド名の一連の婦人服(以下「被告商品」という。)を製造して被告名鉄に納入し、被告名鉄は、平成六年四月一三日から、これらを名古屋市内にある名鉄百貨店本店において販売した。

(三) 原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同のおそれ

(1) 被告商品は、いずれも、原告の周知な商品表示である前記(一)(2)①ないし④記載の原告商品の形態と共通する形態の特徴を有している。この点は、原告商品1ないし5と被告商品1ないし5とをそれぞれ対比すれば明らかである。

(2) また、右のとおり形態の特徴が共通することに加え、被告名鉄は、被告商品の販売に当たって、原告商品の場合と類似した販売・陳列方法を用いていた。すなわち、原告商品は、独特の書体と色彩からなる「PLEATS PLEASE」のロゴを掲示した専用の売場において、商品を筒状に巻き、透明な素材で作られた特製の容器に収納して陳列されているところ、被告商品でも、被告商品を中心としたプリーツ製品を集めた専用の売場において、二色刷りの「THE PLEATS」なるロゴを掲げ、商品を筒状に巻いて陳列されていた。したがって、被告らによる被告商品の販売は、原告商品との混同を生じさせる行為である。

(四) したがって、被告らによる被告商品1ないし5の販売は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に当たる。

3  不正競争防止法二条一項三号の不正競争

(一) 被告名鉄は、平成六年六月下旬、訴外青木さつきに対し、被告商品5を一点販売した。右被告商品5は、被告ルルドが製造し、被告名鉄に納入したものである。

(二) 被告商品5の形態は、原告商品5の形態と実質的に同一であり、また、被告商品5は原告商品5に依拠して製造されたものであるから、被告商品5は原告商品5の形態を模倣した商品である。

(三) したがって、被告らによる右被告商品5の販売は、不正競争防止法二条一項三号の不正競争行為に当たる。

4  著作権の侵害

(一) 原告商品の著作物性

(1) 原告商品は、ポリエステルの生地を使用し、ランダムプリーツを施すことにより独特の光沢とハリを持たせ、直線断ちを基本とするなど、かつて存在したプリーツ製品にはみられない独自性を有し、高度の芸術性を有するから、客観的にみて美術的鑑賞の対象となり得るものである。したがって、原告商品の一点一点が著作物性を有する。

(2) 仮に、大量生産された原告商品の一点一点に著作物性が認められないとしてもコレクション及び買付けのための展示会で使用するために最初に製造された原告商品(以下「原作品」という。)には著作物性がある。

(二) 原告の著作権

原告商品及び原作品は、訴外三宅ら原告の役員及び従業員が職務上共同で創作し、原告の名義の下で公表したものであるから、その著作権は原告に帰属する。

(三) 複製権侵害

(1) 被告商品は、原告商品に依拠して作成されたものであり、原告商品の内容及び形式を覚知させるに足りるものといえるから、原告商品を複製したものである。

(2) 仮に、原作品のみが著作物と評価されるとしても、被告商品は、その適法な複製物である原告商品に依拠して作成されたものであり、原作品の内容及び形式を覚知させるに足りるものといえるから、原作品を複製したものである。

(3) したがって、被告商品1ないし5を製造・販売した被告らの行為は、原告の原告商品又は原作品についての複製権を侵害する。

(四) 翻案権侵害

(1) 仮に、被告商品が原告商品又は原作品の複製に当たらないとしても、被告商品は、原告商品又は原作品の内面的表現形式を冒用して作成されたものであるから、原告商品又は原作品を翻案したものである。

(2) したがって、被告商品1ないし5を製造・販売した被告らの行為は、原告の原告商品又は原作品についての翻案権を侵害する。

5  損害賠償請求

(一) 被告らは、被告商品1ないし5を製造・販売する行為が不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為若しくは著作権侵害行為であることを知り、又は過失によりこれを知らないで、平成六年四月一三日から同年六月ころまで右行為を継続し、これによってそれぞれ少なくとも一〇万円の利益を得た。

そして、右利益は、不正競争防止法五条一項又は著作権法一一四条一項により、被告らの右行為によって原告が受けた損害の額と推定される。

(二) 被告らは、被告商品5を販売する行為が不正競争防止法二条一項三号の不正競争行為であることを知り、又は過失によりこれを知らないで、右行為を行い、これによってそれぞれ少なくとも一〇万円の利益を得た。

そして、右利益は、不正競争防止法五条一項により、被告らの右行為によって原告が受けた損害の額と推定される。

(三) よって、原告は、被告らそれぞれに対し、①不正競争防止法四条、二条一項一号、②同法四条、二条一項三号、又は、③著作権侵害に基づき、一〇万円の損害賠償とこれに対する遅延損害金の支払を求める(①ないし③の請求は選択的併合)。

6  信用回復措置請求

(一) 被告商品は、原告商品に比較して品質が劣るものであり、これが原告商品と誤認されることにより、原告商品に対する信頼と原告の信用が著しく損なわれた。また、被告商品のような粗悪品の流通は、プリーツ製品一般に対する消費者のイメージの低下をもたらし、ひいては原告に営業上の損害を与えた。これらによって、原告は、金銭に換算することのできない無形の損害を受け、これを回復するためには謝罪広告を求めるよりほかに方法がない。

(二) よって、原告は、被告らに対し、①不正競争防止法七条、二条一項一号、又は、②同条七条、二条一項三号に基づき、信用回復措置としての謝罪広告を求める(①、②の請求は選択的併合)。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1(一)  請求原因1(一)の事実は不知。

(二)  同1(二)の事実は認める。

2  請求原因2(不正競争防止法二条一項一号の不正競争)について

(一) 請求原因2(一)(原告の周知な商品表示)について

(1) 請求原因2(一)(1)の事実のうち、原告商品が平成五年から販売されていることは認め、その余は不知。

(2) 同2(一)(2)の事実のうち、原告商品が各アイテムに共通してポリエステル一〇〇パーセントの生地に縦方向の細かいランダムプリーツが施された形態を有していることは認め、その余は否認する。

(3) 同2(一)(3)の事実のうち、原告商品が平成六年二月ころに全国においてその取引者である服飾関係者及びその需要者である一般女性に広く認識されるところとなり、その結果、原告商品に共通する特徴的形態がそのころまでに原告の商品であることを示す商品表示として全国的に周知になったことは否認し、その余は不知。

(4) 原告が主張する原告商品の形態は、以下に述べる理由により、原告の周知な商品表示とはいえない。

① ランダムプリーツを施すことは原告商品が発売されるはるか以前から女性用衣類において広く行われていること、プリーツ製品の素材としてポリエステルを用いることも従来から頻繁に行われていること、平面的・直線的な印象を与えるという特徴も従来からのランダムプリーツを用いた婦人服が大なり小なり有する特徴であることなどを考慮すると、原告が主張する原告商品の形態の特徴はいずれも独自の意匠的特徴とはいえず、原告商品の形態には独自性が認められない。

② 原告商品の広告宣伝は、その実用的機能、低価格、組み合わせや重ね着といったセールスポイントを強調したものであり、その形態的特徴に着目した広告宣伝がなされたという事実が認められないこと、原告は、平成六年二月ころに原告商品の形態が周知な商品表示になったと主張するが、右は、原告商品が発売されてからわずか一年程度しか経っていない時期であること、被告商品が販売された名鉄百貨店本店のある名古屋市内において原告商品が販売されたのは、平成六年三月二日からであることなどの事情によれば、平成六年二月ころに、被告商品の需要者の間で、原告商品の形態が原告の商品表示として周知になっていたとは認められない。

③ 商品の形態が当該商品分野における技術的機能をよりよく発揮させるために必然的に選択された結果である場合は、右商品形態は商品表示に該当しないと解されるところ、原告が主張する原告商品の形態の特徴はいずれも、女性用衣類に要求される軽さ、しわになりにくいこと、型くずれしないこと、洗濯のしやすさ、汗を吸いやすいこと、汚れにくいこと、といった機能をよりよく発揮するために、衣類全体にプリーツを施すという加工方法を選択した結果生じた形態であり、右技術的機能に由来する必然的な形態にほかならないから、右のような形態は商品表示とはなり得ない。

(二) 請求原因2(二)の事実は認める。

(三) 請求原因2(三)(原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同のおそれ)について

(1) 請求原因2(三)(1)の事実のうち、被告商品が、立体裁断を使用せず平面的にデザインされていること、細かいランダムプリーツが施されていること、ポリエステル一〇〇パーセントの素材を用いていることは認め、その余は否認する。

(2) 同2(三)(2)の事実のうち、原告商品が、「PLEATS PLEASE」のロゴを掲示した専用の売場において、商品を筒状に巻き、透明な素材で作られた特製の容器に収納して陳列されていること、被告商品が、専用の売場において、二色刷りの「THE PLEATS」なるロゴを掲げ、商品を筒状に巻いて陳列されていたことは認め、その余は否認する。

(3) 被告商品と原告商品の形態が類似しないことは、被告商品1ないし5とこれに対応する原告商品1ないし5を対比すれば明らかである。すなわち、被告商品1と原告商品1は、身頃の幅、アームホール、襟ぐりの大きさ、色彩において、被告商品2と原告商品2は、身頃の幅、色彩、袖の有無において、被告商品3と原告商品3は、全体的な幅と広がり、色彩において、被告商品4及び5と原告商品4及び5は、身頃と袖部の幅、肩のライン、大きく目立つ襟の有無において、それぞれ異なり、いずれも形態の類似性がない。

また、被告商品と原告商品の形態が右のとおり類似しないことのほか、被告商品が「ルルドエレガンス」なるブランド名を大きな下げ札により表示して販売されていたこと、原告商品や被告商品の需要者たる女性はファッションに対する強い関心と衣類に関する豊富な商品知識を有しているのが通常であり、商品の購入に当たっては、そのサイズ、形状、機能、ブランド名、価格等に着目し、他の商品とも比較検討して選択し購入すると考えられることなどからすれば、被告商品と原告商品とが誤認混同されるおそれはない。

(四) 請求原因2(四)の主張は争う。

3  請求原因3(不正競争防止法二条一項三号の不正競争)について

(一) 請求原因3(一)の事実は認める。

(二) 同3(二)の事実は否認する。

(三) 同3(三)の主張は争う。

4  請求原因4(著作権の侵害)について

(一) 請求原因4(一)(原告商品の著作物性)について

(1) 請求原因4(一)の事実は否認する。

(2) 原告商品は、量産品であり、その形状、内容及び構成等に照らし、純粋美術と同視し得るだけの高度の美的表現を具有しているとは認められないから、著作物性を有しない。

(二) 請求原因4(二)ないし(四)の事実はいずれも否認する。

5  請求原因5及び6の事実はいずれも否認する。

三  抗弁(不正競争防止法二条一項三号の不正競争の主張に対して)

1  附則三条及び六条の適用

平成六年六月下旬の訴外青木さつきへの被告商品5の販売は、被告らが平成六年四月一三日から行った被告商品の販売行為の一環として行われたものであるから、平成五年法律第四七号による改正後の不正競争防止法(以下「新法」という。)の施行(平成六年五月一日)前に開始した行為を継続する行為に当たる。

したがって、新法附則三条二号及び六条により、原告は、右被告商品5の販売について、新法四条に基づく損害賠償及び同法七条に基づく信用回復措置を求めることはできない。

2  権利濫用又は信義則違反

被告らは、平成六年五月、原告の要求に応じて自発的に被告商品の製造・販売を停止したにもかかわらず、原告の指示を受けた訴外青木さつきの執拗な要求により、同年六月下旬ころ、被告商品5を一点のみ製造・販売したものである。

このように、自らおとりを用いて被告らに被告商品5を製造・販売するよう誘因した原告が、被告らの右行為を権利侵害と主張することは、権利濫用に当たり、又は、信義則に反する。

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

1(一)  抗弁1の事実は否認する。

(二)  被告らによる訴外青木さつきへの被告商品5の販売行為は、新法施行前からの一連の被告商品の販売行為とは切り離された、独立した個別の行為であるから、新法附則三条二号及び六条の適用はない。

2(一)  抗弁2の事実のうち、被告名鉄が原告の指示を受けた訴外青木さつきの要求により同年六月下旬ころ被告商品5を一点のみ販売したことは認め、その余は否認する。

(二)  原告が訴外青木さつきに被告商品5の購入を指示七たことは、仮処分申立てのための疎明資料を入手するための正当な行為である。

理由

第一  請求原因1(当事者)について

一  甲第一三六号証及び弁論の全趣旨によると、請求原因1(一)の事実が認められる。

二  請求原因1(二)の事実は当事者間に争いがない。

第二  請求原因2(不正競争防止法二条一項一号の不正競争)について

一  請求原因2(一)(原告の周知な商品表示)について

1  甲第一号証、第二号証、第一三六号証及び弁論の全趣旨によると、請求原因2(一)(1)の事実が認められる。

2  原告商品の形態の特徴について

甲第一号証、第二号証、第一三六号証、検甲第一号証ないし第五号証及び弁論の全趣旨によると、原告商品は、平成六年二月当時において、原告商品1ないし5(タンクトップ、ポロシャツ、ロングパンツ、カーディガン)など一七種のアイテムにつき一三色の単色の色彩を備えた婦人服のシリーズ商品であったところ、これらシリーズ商品の形態を、各アイテムの性質上必然的に備えるべき基本的形態(例えは、上衣のアイテムであれば、袖ぐりや襟ぐりが存在することなど)を捨象して観察すれば、「滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状のランダムプリーツ(幅が一定しないひだ)が、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含めて全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成する」という共通した特徴があることが認められる。

3  原告商品の形態の周知商品表示性について

商品の形態は、本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等のために選択されるものであり、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需用者の間で周知になることがあり得るというべきである。そして、このような場合には、右商品形態が、当該商品の技術的機能に由来する必然的、不可避的なものでない限り、不正競争防止法二条一項一号に規定する「他人の商品等表示として需用者の間に広く認識されているもの」に該当するものといえる。

そこで、前記2記載のような原告商品の特徴となる形態が、右のような周知な商品表示としての機能を、遅くとも被告商品の販売が開始された平成六年四月ころまでに獲得したか否かについて検討する。

(一) 原告商品の形態の独自性について

甲第一二五号証、第一二六号証、第一二九号証、第一三六号証、乙第六号証ないし第八号証、第一一号証ないし第三七号証及び弁論の全趣旨を総合すると、前記2記載のような原告商品の形態の特徴を構成する要素のうち、婦人服に縦方向の細かい直線状のランダムプリーツを施すことが原告商品の発売以前から一般的に行われている技法であること、右ランダムプリーツをポリエステルの生地に施した婦人服も原告商品の発売以前から存在したことが認められる。しかしながら、原告商品の形態的特徴は、単にポリエステル生地に右のようなランダムプリーツを施したことに尽きるものではなく、右ランダムプリーツを、布地を裁断・縫製して衣服を成形した後に施すという加工方法をとることによって、衣服の肩線、袖口、裾などの縫い目部分の上にも他の部分と同様に形成し、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成するという点に強く看者の注意をひく特徴があるというべきところ、右のような形態的特徴をもたらすプリーツ加工の方法は、訴外三宅が発明し、原告が平成元年四月七日に特許出願して、同六年六月一日に出願公告された特許に係る方法であり(甲第一三五号証)、したがって、右プリーツ加工の方法は、特許庁によって右出願当時において新規な加工方法であったと判断され、かつ、右出願公告以降は、原告がこれを実施する権利を専有するとされるものであること(平成六年法律第一一六号による改正前の特許法五二条)、そして、現に前掲各証拠により示される昭和五〇年代半ばころから平成六年までの多数の他業者のプリーツ製品の形態をみても、右と同様のプリーツ加工の方法を採用し、その結果、原告商品と同様の特徴を有すると認められるものが見当たらないこと、加えて、(二)で後述するとおり、原告商品は、その商品の性質上外形的なデザインの美しさや新しさが需要者から特に重視される婦人服の分野において、発売後短期間のうちにヒット商品として定着したものであることなどの事情に照らせば、原告商品の前記のような形態は、平成六年四月ころの時点において、他の業者の同種商品には見られない独自の形態であったということができる。

(二) 原告商品の形態の周知性について

甲第六号証ないし第一一号証、第一六号証の一ないし三、第一七号証ないし第九七号証、第一一三号証、第一一四号証、第一一五号証の一、二、第一一六号証、第一二九号証、第一三〇号証、第一三六号証及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告商品の発表・販売の経過

訴外三宅は、昭和六三年一〇月に開催された「イッセイミヤケ一九八九年春夏コレクション」において、ポリエステル生地の衣服の全体にプリーツ加工を施した作品を初めて発表し、以後毎年二回開催される自らのコレクションにおいて、プリーツを用いた様々なデザインの衣服を作品として発表して、内外のファッション関係者からの高い評価を得てきた。

原告商品は、訴外三宅のこれらプリーツ作品を基に原告において企画・考案し、平成四年一一月に開催された業者向けの買付用展示会で初めて発表された後、平成五年二月から、訴外会社によって、東京都内の同社の直営店など数店の服飾専門店で販売されるようになった。

その後、原告商品は、伊勢丹、三越、大丸といった主要百貨店でも販売されるようになり、販売地域も首都圏から近畿地方へと拡大し、平成六年二月には、訴外会社の直営店三店、百貨店一一店のほか多数のファッション専門店において販売されるようになった。また、同年三月二日からは、名古屋市内の三越名古屋店においても、原告商品の販売が開始された。そして、右のような販売の拡大によって、訴外会社による原告商品の売上額は、小売店への卸売総額として、平成五年夏ころには月平均四〇〇〇万円ないし五〇〇〇万円であったものが、同六年五月には月約一億五〇〇〇万円に達するものとなった。

さらに、原告商品は、平成五年一〇月にパリで、同年一一月に東京で開催された「イッセイミヤケ一九九四年春夏コレクション」において、訴外三宅の作品として発表され、好評を博した。

(2) 原告商品の雑誌・新聞への掲載

原告商品は、平成五年二月の発売当初から同六年四月ころまでの間、服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」に属する商品シリーズとして、業界新聞のほか、全国的に広く発行されている婦人向けファッション雑誌や一般新聞において、紹介記事や広告が頻繁に掲載されてきた。そして、これらの多くにおいては、原告商品を平置きにした状態あるいはモデルに着用させた状態の写真が掲載されている。

また、右記事の中には、例えば以下のとおり、原告商品を注目商品あるいはヒット商品として紹介するものが数多く含まれている。

① 雑誌「ELLE JAPON」平成五年四月五日号では、原告商品がイッセイ・ミヤケの新ブランドとして紹介され、「この春、注目のブランド」とされている(甲第六号証)。

② 平成五年九月三日付け毎日新聞では、第一一回毎日ファッション大賞を受賞した訴外三宅に関する記事が掲載され、その中で、訴外三宅が開発したプリーツがいまや爆発的な人気であることが紹介されている(甲第三三号証)。

③ 雑誌「ハイファッション」平成五年一二月号では、訴外三宅のプリーツが世界的な成功をおさめた服として紹介されている(甲第一〇号証)。

④ 平成五年一二月二一日付け毎日新聞夕刊には、原告商品を含む多くのプリーツを用いた作品が発表された訴外三宅の「一九九四年春夏コレクション」の特集記事が掲載されているが、同記事においては、訴外三宅のプリーツについて、「日本人が世界に発信したデザインとして、世界の服飾史に残るに違いない」と論評されている(甲第四〇号証)。

⑤ 雑誌「SPUR」平成六年二月号には、原告商品に関する特集記事が掲載され、その中で原告商品は、「最近、働く女性たちの間で評判の服」として紹介されている(甲第九号証)。

⑥ 雑誌「NON―NO」平成六年三月五日号では、原告商品が、「最近女の子から大人の女性までが注目している服」として、紹介されている(甲第八八号証)。

⑦ 平成六年四月六日付け毎日新聞には、原告商品に関し、「この春、都内の百貨店にいくつものプリーツショップが誕生、プリーツ状のカラフルな服が目をひいています。各店とも予想を超える売上げ、ただいま品切れ続出の商品です。」との紹介記事が掲載されている(甲第四四号証)。

(3) さらに、原告商品が、婦人服の分野において、全国的なヒット商品として一般に認識されていたことを示す事情として、以下のような事実がある。

① 百貨店バイヤーからの評価によって選考される百貨店バイヤーズ賞のレディス部門において、原告商品は、一定の売上げ規模があり、しかも独創性が評価されるブランド(商品企画)に贈られるクリエーティブ賞を、平成五年度、平成六年度と続けて授賞した(甲第二二号証、第二八号証)。

② 平成六年一二月二二日付け日経流通新聞が発表した「平成六年度ヒット商品番付」において、原告商品は、「最先端の技術と価格抑制で幅広い女性が支持した」との理由で、東の前頭にランクされた(甲第二六号証)。

③ 平成六年六月三〇日までのクリエーションワークを対象とする東京クリエーション大賞(社団法人東京ファッション協会主催)において、「イッセイ・プリーツ」が大賞を授賞した(甲第一一五号証の一、二)。

(三)  右(一)及び(二)を総合すると、原告商品は、平成六年四月当時、前記2記載のような形態において、同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものということができ、かつ、平成五年二月の発売直後から平成六年四月ころまでの間に、数多くの全国的なファッション雑誌や新聞に頻繁に取り上げられてその形態が写真付きで紹介されるとともに、その販売地域や販売額も拡大するなどして、全国的ヒット商品としての評価が定着したということができるものであって、加えて、原告商品が著名な服飾デザイナーである訴外三宅のブランドとして広く知られた「イッセイ・ミヤケ」の商品シリーズであり、右「イッセイ・ミヤケ」ブランドに属する商品シリーズとして、販売、宣伝広告、雑誌・新聞での紹介がされてきたことをも考慮すると、原告商品の形態は、遅くとも平成六年四月ころまでに、全国の服飾関係業者及び一般消費者の間において、服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」を運営する営業主体の商品であることを示す商品表示としての機能を有するに至るとともに、右商品表示として周知性になったものと認めるのが相当である。

そして、前記第一、一で認定したとおり、右「イッセイ・ミヤケ」ブランドは、原告と訴外会社によって構成される企業グループによって運営されているのであるから、原告商品の形態は、右企業グループの商品表示として周知になったものと認められ、したがって、右グループを構成する会社の一つである原告に関しても、周知な商品表示であったということができる。

(四) 被告らは、原告商品の前記のような形態は、女性用衣類に要求される軽さ、しわになりにくいこと、型くずれしないこと、洗濯のしやすさ、汗を吸いやすいこと、汚れにくいこと、といった機能をよりよく発揮するために、衣類全体にプリーツを施すという加工方法を選択した結果生じた形態であり、右技術的機能に由来する必然的な形態であるから、商品表示とはなり得ない旨主張する。なるほど、原告商品の形態が被告らが主張するような衣類としての機能の発揮に資するものであり、このような機能を発揮することが原告商品の形態の選択に当たって一つの考慮要素となったことは否定できない(甲第一三五号証、第一三六号証)。しかしながら、右のような機能を達成するための形態は、原告商品のようなものに限られないのであり、原告商品では、右のような機能面のみならず、衣服としての美しさの観点から、一つのデザインとして前記のような形態を選択したものであることは、外形的なデザインが需要者から最も重視される婦人服という商品の性質上明らかというべきであるから、原告商品の形態は、その技術的機能に由来する必然的な形態とはいえないのであり、被告らの前記主張は理由がない。

二  請求原因2(二)の事実は当事者間に争いがない。

三  請求原因2(三)(原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同のおそれ)について

1  前記のとおり、原告商品の形態は、「滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状のランダムプリーツが、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含めて全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成している」という点に、特に看者の注意をひく独自の特徴があり、かかる特徴的形態が同種商品と識別される周知な商品表示となったものと認められるところ、被告商品1ないし5(検甲第六号証ないし第一〇号証)を原告商品におけるこれらに対応したアイテムである原告商品1ないし5(検甲第一号証ないし第五号証)とそれぞれ対比しつつ観察すれば、被告商品1ないし5が、いずれも右と共通する形態の特徴を有することは明らかというべきである。他方、原告商品1ないし5と被告商品1ないし5との間に、被告らが主張するような相違点(「請求原因に対する認否及び被告らの主張」2(三)(3))のあることが認められるが、いずれも個別のアイテムにおける細部の相違にすぎず、これらをすべて考慮しても、前記のような共通した特徴的形態からもたらされる看者の印象の共通性が否定されるものではない。

したがって、被告商品1ないし5の形態は、原告の周知な商品表示となった原告商品の形態に類似するものと認められる。

2  右のとおり被告商品1ないし5の形態が原告商品の形態と類似することからすれば、被告商品1ないし5は、取引者ないし需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあるものと認められる。

なお、本件においては、これに加えて、(1)被告商品と原告商品の販売・陳列方法が、①いずれも百貨店における専用の売場での販売が行われている点、②右売場において、原告商品の場合には「PLEATS PLEASE」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されているところ、被告商品においても「THE PLEATS」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されている点、③いずれも商品の一部を筒状に巻いて陳列するという方法を採用している点(右①ないし③の事実は当事者間に争いがない。)において類似していること、(2)販売価格についても、被告商品1ないし5が八〇〇〇円から一万五〇〇〇円であるところ(検甲第六号証ないし第一〇号証)、これに対応する原告商品1ないし5は一万二〇〇〇円から二万円であり(検甲第一号証ないし第五号証)、両者の価格帯がほぼ共通することなど、需要者たる一般消費者の混同を助長する事情の存在することが認められるのであって、これらの事情に照らしても、被告商品1ないし5につき需要者において原告商品との混同を生じるおそれがることは明らかというべきである。

四  以上によると、被告商品1ないし5を販売した被告らの行為は、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当する。

第三  請求原因5(損害賠償請求)について

一  被告らは、被告商品1ないし5を販売するにつき、右行為が前記のとおり不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当することを知り、又は少なくともこれを知らないことにつき過失があったものと認められるから、右不正競争行為によって原告が受けた損害を賠償する責任がある。

二  被告らが、平成六年四月一三日から同年六月ころまでの間に、被告商品1ないし5を販売することによって、それぞれ一〇万円を下らない利益を得たことは、被告商品1ないし5の販売価格(検甲第六号証ないし第一〇号証)や甲第五号証の一ないし四からうかがわれる被告商品の販売規模・販売状況に照らして明らかというべきである。そして、被告商品1ないし5の販売によって被告らがそれぞれ得た利益一〇万円は、不正競争防止法五条一項により、被告らの不正競争行為によって原告が受けた損害の額と推定される。

三  したがって、被告らそれぞれに対し、不正競争防止法四条、二条一項一号に基づいて、一〇万円の損害賠償及びこれに対する不正競争行為の後である請求の趣旨記載の日(訴状送達日の翌日)から支払い済みまでの遅延損害金の支払を求める原告の請求は、理由がある。

第四  請求原因6(信用回復措置請求)について

原告は、被告商品が原告商品に比して品質の劣る粗悪品であり、これが原告商品と混同されることによって、原告商品に対する信頼が損なわれるとともに、このような粗悪品の流通がプリーツ製品一般に対する消費者のイメージの低下をもたらし、ひいては原告に営業上の損害を与えた旨を主張する。しかしながら、本件において、被告らによる被告商品の販売によって、原告が主張するような原告の営業上の信用の低下が現実に生じたことを認めるに足りる証拠はない。また、仮に、原告に何らかの営業上の信用の低下が生じていたとしいても、被告らによる被告商品の販売が、名古屋市内の名鉄百貨店のみにおける地域的に限られたものである上、その販売期間も二か月程度と比較的短期間にすぎないことなどを考慮すれば、前記のとおり原告の被告らに対する損害賠償請求を原告の請求額全額につき認容する本件において、さらに被告らに対し、信用回復措置としての謝罪広告まで命ずる必要があるとまでは認められない。

したがって、被告らに対し、不正競争防止法七条、二条一項一号に基づいて、信用回復措置としての謝罪広告を求める原告の請求は、理由がない(仮に、請求原因3の不正競争防止法二条一項三号の不正競争が認められるとしても、これを理由とする謝罪広告の請求は、右と同様の理由により、認められない。)。

第五  結論

以上によると、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、主文第一項及び第二項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官大西勝滋)

別紙謝罪広告目録<省略>

別紙物件目録(一)、(二)<省略>

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